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以前、リートの公募増資(PO)に関し、良い増資の例として、プレミアム増資のことを書きましたが、今回は、プレミアム増資でも売られる事例を通じて、もう少し深堀りしていきます。

【リート考】リートにおける良い増資(PO)と悪い増資の見定め方。

2020年10月、オフィス系リートの雄、日本ビルファンド投資法人(8951)と、2020年12月、レジデンス系リートの雄、日本アコモデーション投資法人(3226)が相次いで公募増資に踏み切り、どちらもプレミアム増資だったのに、大幅に売られるという市況になりました。

日本ビルファンド投資法人(8951)が公募増資をリリースした前日の10/8の投資口価格は終値602,000でしたが、そこからズル下げとなり、10/30には528,000をつけています。

また、日本アコモデーション投資法人(3226)は、12/1の終値587,000から公募増資リリース後、翌日559,000と即応し、12/7には、541,000となっています。

この二つの投資法人は、くしくもスポンサーが同じ三井不動産(8801)なんですよね。

日本ビルファンド投資法人(8951)の公募増資は、以下の記事にもありますように、いわゆるプレミアム増資であったのですが、ズルズルと売られる結果となっています。

「売られすぎ」感の強い日本ビルファンド投資法人(マネックス証券マネクリ)https://media.monex.co.jp/articles/-/15305

一方で本増資は増資による発行価額が、それまでの1口当たり出資額を上回るプレミアム増資となるため分配金の増加に寄与するものとなっている。本増資前の1口当たり出資額は37万円弱であったため、本増資の発行価額51万円強は大幅なプレミアム増資と言える。(2.10.22)

つまり、プレミアム増資なのに、投資家からは売られたのですが、実は、増資がプレミアム増資だからといって、必ずしも市場では評価されるわけではありません。

増資をするタイミングや理由が、投資家心理に不安を与えることがあるからです。

そして、もう少し掘り下げてみていくと、今回の増資にあたり、両投資法人ともに、収益が下がっていることをカバーするための物件取得であったことも見えてきます。

このことは、投資法人の努力でもあるのですが、一方で、そのこと自体を不安に思った人もいるのだと思います。

今回は、公募増資に与えるネガティブな要因について、詳しく見ていきたいと思います。

数字上プレミアムと判断されても、それだけで良い増資と評価されるとは限らないんだね。

リートにおける良い増資と悪い増資

はじめに、少し復習ですが、リートにおける良い増資と悪い増資については、一応以下のように言われています。

発行価格<1口あたり出資額 プレミアム増資

発行価格>1口あたり出資額 ディスカウント増資

※1口あたり出資額=(純資産額−当期純利益)÷発行済投資口数

リートでは、投資法人が不動産物件を保有していますが、この帳簿上の価格を純資産額といいます。

この金額から当期純利益(その期中に分配金として支払ってなくなる)を控除したものが、出資額です。

それが分かると、公募増資の際の発行価格と比べる意味が分かると思います。例えば、公募増資で100万分を買ったら、150万分の出資額がもらえたとなれば、プレミアムですよね。

このことは、以下の記事でもう少し詳しく書いていますので、ご参考ください。

【リート考】リートにおける良い増資(PO)と悪い増資の見定め方。

ちなみに、帳簿上の価格って何? という場合は、以下をどうぞ。

【リートの基本】不動産の価格3種類を理解して業績レポートを読む❗

なお、最初の記事で書いてある1口当たり出資額は、記事でも37万としていますが、実際決算短信を見てみますと、確かに383,810円-10,986円となります。

日本ビルファンド投資法人(8951)の場合

まずは以下の記事をご覧ください。

REIT最大手が急落 「季節外れ」増資に疑問の目(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66442720Z11C20A1000000

上記の記事では、この増資がネガティブに評価された理由として、リート自体の需給面や増資の発表がなされたタイミングの問題が指摘されています。

物件を売りたくなった三井不動産側の都合なのか? リート最大の時価総額を取り戻したかったという投資法人側の都合? 様々な憶測が出ています。

これらの疑念が売りを呼んだということはありそうです。つまり、この時期に増資してまで物件を取得した理由も不透明にとらえられたんですね。

あと、物件を売却したのは、スポンサーの三井不動産です。親であるスポンサーの都合で物件を売却したのではという疑義は、リートにおいてはいつも付きまとうトラウマみたいなものです。

次に、以下の資料をご覧ください。

運用状況の予想に関する補足説明資料(日本ビルファンド投資法人)

資料の3ページをご覧ください。本募集前(既存71物件)から取得5物件の取得を経て、分配金が994円の10,904円になることをもって、+10%の外部成長と説明していますね。

これは、確かに今回の公募増資により分配金が増えたということですが、5物件を取得しなかったら、逆に9,910円となっていたことも表していると思います。

資料の2ページをご覧ください。9,910円というのは、2018年6月期から12月期にかけての水準です。

確実にコロナ渦の影響が出始めているのですが、公募増資付きの物件取得による外部成長によって、収益を積み増し、分配金も10,904円から固都税効果で+426円として、11,330円となりました。なんとか分配金の増配を守ったことになります。

※固都税効果については別記事作成予定

なお、固都税効果で426円の収益増ですから、次の期には、この効果はなくなりますので、そこからが巡航である点に注意です。

ということで、5物件を取得しなかった場合の分配金の減少幅もネガティブ要因だったかなと思います(思ったより減ったなあ)。

日本アコモデーション投資法人(3226)の場合

次は、日本アコモデーション投資法人(3226)の場合ですが、以下のとおり、こちらもプレミアム増資ということになります。

発行価格537,225円 > 1口当たり出資額 291,448円-10,108円

しかし、日本ビルファンド投資法人(8951)よりも売られた感がありました。

はじめに、こちらも以下の記事をご覧ください。

住宅型REIT大手が急落 問われる内部留保の使い方(日本経済新聞)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOMC1780J0X11C20A2000000

やはり公募増資のタイミングの指摘がされていますね。そして、日本ビルファンドとスポンサーが同じ三井不動産であることも。

次に、公募増資に伴う業績を見ていきたいと思います。

2021 年2月期及び 2021 年8月期の運用状況の予想の修正に関するお知らせ
https://www.naf-r.jp/file/ir_news-a0f6c018efc1fc4563fa0244d05de01c9befaaf9.pdf

上記資料の1ページをご覧ください。公募増資によって物件を取得したのに、第30期及び第31期ともに分配金変わらずという結果です。

公募増資したのに、規模拡大しただけというのは、投資家の受けはよくないのですが、日本アコモデーション投資法人(3226)って、こういうの以前にもやっています(パーク系レジデンスってやはりお高いのでは)。

続いて、5ページでは、5物件を取得していなかったら、分配金が9,602円まで落ちていた可能性があるけど、2%成長で、9,792円に戻して、9,910円にまで持ってきましたということを言いたいのかなと思います。

物件取得してよかったでしょということを言いたいのだと思います。それは確かにそうなのでしょうが、ここでも日本ビルファンドの場合と同じで、分配金が9,602円まで落ちるくらい、収益が落ちているのね、という一面も見えてくる。

実際、物件の稼働率が下がっていまして、2020年3月末に98.2%あったものが直近では、95.9%にまで下落しています(ちなみに、稼働率95%を連発していた第19期は、300円の減配となっています。)。

プレミアムな公募増資でも売られる理由

ここまで見てきましたように、やはりタイミングと増資の理由、物件の売り主ですね。ここに不透明感があると、投資家には嫌われる結果になるかと思います。

また、投資法人が開示した資料からも、業績の先行き不安が垣間見えたと思います。

これらの理由から、いったん売りが先行した結果になったとは思いますが、日本ビルファンド投資法人(8951)では、結果的に、分配金の水準は守った形になっていますから、その後徐々に値を戻しています。

こうした分配金の数字をつくる姿勢が評価されたと思いますし、そのための公募増資だったという見方もできます。

日本アコモデーション投資法人(3226)の方は分配金は守れず減少してますけどね。パーク系は高いので、ここは昔からあまり好きではないです(もう一度言ってしまった)。

日本ビルファンドが様々な憶測で一時的には売られたけど、数字的なところで値は戻してきた感じがするのは、ポイントになりそうだね。

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