この記事は前回の続きとなります。前回は、以下の2投資法人の3つの利回りを比較しながら、それぞれの利回りが示す傾向に何が影響しているのかということを確認しました。
その際に両投資法人の減価償却費の違いにも少し着目をしましたね。今回は、この点を掘り下げていきたいと思います。
【リート考】分配金利回り、FFO利回り、NOI利回りを実際に算出して比較してみよう。(アドバンス・レジデンス投資法人(3269)とスターツプロシード投資法人(8979))
目次
減価償却費とは
はじめに、少し減価償却費の説明をします。他の記事でもふれていますが、例えば、100万円の不動産(建物)を購入したとしましょう。実際100万円の現金を使っているのですが、会計上、取得した会計年度に100万円全額を費用としては、計上しません。耐用年数といって、その不動産を何年にわたって、償却(費用計上)していくかが決められているのです。
例えば、100万円の不動産の耐用年数が22年だとしましょう。この場合、100万÷22年≒4.5万円となりますので、約4.5万円ずつを22年にわたって、費用計上していきます。こういった決まりになっているのが、減価償却の仕組みです。
そして、減価償却費というのは、「費用」ですから、収益から控除され、結果、当期純利益に含まれません。ですが、「現金支出を伴わない費用」ですから、原則、投資法人の手元に残る資金となります。このことは、投資法人のキャッシュフローの流れを追うことで、理解することができます。
サムティ・レジデンシャル投資法人(3459)とジャパンシニアリビング投資法人(3460)の場合
ここからが本題になります。こうした減価償却費を含めた利回りであるFFO利回りが高い銘柄として、以下の2法人を取り上げます。
上記から算出した利回りが以下のとおりです。
FFO利回り
両銘柄とも分配金利回りがすでに高めとなっていますが、FFO利回りは、さらに高利回りですね。ジャパンシニアリビング投資法人(3460)では、10%を超える利回りです。
FFO利回り=1口あたりFFO÷投資口価格
※FFOは、当期純利益(不動産売却損益除く)+減価償却費
このように、投資家に対して分配金として支払われる資金に加えて、減価償却費として投資法人の手元に残る資金も併せて算出すると、さらに高利回りとなることが分かります。
高い減価償却費が効いている
やはりここでもポイントは、両銘柄の減価償却費の高さです。どちらの銘柄も減価償却費が賃貸事業費用の50%を超えていますね。なぜこのようなことになるのかは、また別の記事で詳しく説明をしたいと思いますが、いわゆる地方を中心に現物の不動産投資をされている方は、すぐにピンとくるでしょう。
サムティ・レジデンシャル投資法人(3459)は、日本全国、地方都市のレジデンスに投資をするという方針ですし、ジャパン・シニアリビング投資法人(3460)の保有する老人ホームは、比較的いわゆる郊外に建設されることが多いですね。
NOI利回り
では、今度は、NOI利回りを見てみます。サムティ・レジデンシャル投資法人(3459)のNOI利回りは、4.8%となっており、記事の冒頭で示しましたアドバンス・レジデンス投資法人(3269) の5.4%よりも低いです。
NOI利回り=賃貸NOI÷取得価格
※賃貸NOIは、賃貸事業収入-賃貸事業費用(減価償却費除く。)
NOI利回りは、保有している不動産が生み出す現金収益を表すものです。購入した取得価格に対して、どの程度の賃貸事業利益が上がっているかという主眼です。この場合、アドバンス・レジデンス投資法人(3269)の方が効率的に利益を上げているのです。
NOI利回りは、減価償却費を含めた算出をしていますから、サムティ・レジデンシャル投資法人(3459)の高い減価償却費があってもなお、アドバンス・レジデンス投資法人(3269)の方がNOI利回りが高いということです。ということは、前者の分配金利回りやFFO利回りの高さは、稼ぐ力が高いというよりも、減価償却費や利益超過分配に依存しているのではないかと推測するわけです。
ですから、ある投資法人の利回りが高いといったときに、物件力があるということとは必ずしもイコールではなく、減価償却費が多く取れる物件である(土地が安く、建物が高い)ということも発想として持っておくと幅が広がります。
次に、ヘルスケアリートのジャパンシニアリビング投資法人(3460)です。
ヘルスケアリートが割安な理由
一般的にヘルスケアリートが割安な水準にとどまっていることの理由として、以下の記事では、投資対象であるシニア住宅の価格の高止まりとオペレーターといわれるシニア住宅運営会社の収益悪化危惧があげられています。
低迷するヘルスケア型REIT 価格回復の道筋見えず : NIKKEI STYLE https://t.co/zTPkymhywi
— tisan (@jreit_org) 2017年3月11日
ジャパンシニアリビング投資法人(3460)の利回り
ジャパンシニアリビング投資法人(3460)は、すべての利回りが高い値を示しています。特に、減価償却費が多く取れていますので、FFO利回りが10.2%、NOI利回りが6.0%となり、どちらもアドバンス・レジデンス投資法人(3269) より高くなっていますね。
この場合も、やはり減価償却費がかなり効いているということになろうかと思います。実際に、同投資法人の決算短信の貸借対照表を見てみますと、半期でキャッシュ(3億4千万)がかなり積み上がっていることが確認できます(同規模のサムティ・レジデンシャル投資法人(3459)ですら、7千万)。
ジャパンシニアリビング投資法人(3460)平成28年8月期 決算短信
http://www.jsl-reit.com/src/pdf/jsl_20161017-1.pdf
また、ジャパンシニアリビング投資法人(3460)では、利益超過分配を実施していませんが、分配金利回りが5.1%ということで、悪くはありません。これは投資口価格がまだある程度割安水準にあることも要因としてありそうです。
投資法人の減価償却費がリート投資家に与える影響
最後に、まとめとして、減価償却費が及ぼす投資家への影響を考えてみましょう。
現物の不動産投資では、一般に減価償却費が高いと手残りが得られやすいので、よいとされています。これは、毎年計上する減価償却費が多くあれば、その分「現金支出を伴わない費用」として計上することができ、手元に現金が残るからです(逆に売却のときには不利になりえますが。)。
一方で、リート投資家の場合はどうでしょうか。投資法人の減価償却費が高ければ、投資法人の手元に残るキャッシュも増えるわけですから、大規模修繕工事などの資本的支出や新規物件の取得にも使えるということで、長期的に運営が安定するということになりそうです。
では、いいことずくめかというと逆の観点も考えなければなりません。「現金支出を伴わない費用」として計上されるということは、当期純利益からは控除され、分配金に回ってこないということになります。
サムティ・レジデンシャル投資法人(3459)のように、利益超過分配を実施している投資法人は、別ですが、減価償却費が膨らめば膨らむほど、投資家に分配される分配金は減少することになりますね。
リートにおける減価償却費には、投資家目線でみたときに、こうした二面性があることを理解し、判断をすることになろうかと思います。
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