さて、今回は、Jリート(REIT)をイメージしやすくするために、不動産1棟分の運営を抜き出して見てみたいと思います。
リートも利益の源泉は、1棟のオフィスビルであったり、マンションであります。この点は、現物の不動産投資と変わることのない仕組みですね。
ですが、ことリートといいますと、投資家自身が具体的に物件に関わることがないので、いまいちリアル感に欠けるわけですが、実際にリートが保有している物件には、入居者が活動をしており、ときには入退去したり、修繕が必要となったりしています。この具体的な流れをイメージしていきましょう。
目次
具体的な物件の収支を見てみましょう
各投資法人が毎期リリースしている決算短信や決算説明会資料には、実は、1つ1つの物件の収益状況が掲載されています。ですから、1つ1つの物件の状況をチェックしようと思えば、できるんですね。
今回は、日本賃貸住宅投資法人(8986)の保有している物件からランダムに、willDo横浜南というワンルームマンションを取り上げます。決算短信の48ページにwillDo横浜南の収益情報が掲載されています。
決算短信(第21期 2016年9月)
http://www.jrhi.co.jp/site/file/tmp-kWxNn.pdf
willDo横浜南の概要
以下に、willDo横浜南だけを抜き出しました。
個人投資家レベルで現物の不動産投資と比較してイメージしやすいように、2億円程度という投資法人の中では小ぶりな物件を取り上げました。
※上記は、年間の総合計です。期末稼働率100%
※利息は、投資比率0.1%×513,813千円=513千円の借入金(平均借入金利1.47%)と仮定
※元本は、投資比率0.1%×117,239,879千円=1億11百万の借入金(平均借入金利1.47%)と仮定
賃貸事業収入
期末稼働率は、100%ということで、非常に優秀です。横浜の最寄駅から徒歩5分ですから、リーシングも強そうですね。賃料収入が、21戸で年間18,029千円ですから、
18,029千円÷21戸÷12月=71,000円(平均月家賃)
という物件になります。ちょっとスーモで検索してみましょう。
http://suumo.jp/library/tf_14/sc_14105/to_0002121709/
2017年3月23日現在、ちょうど1部屋募集中になっていました。賃料6.5万+共益費5千円で、7万での募集です。募集価格からは、まだ現在水準の競争力は保っているのかなと推測します。
その他、セキュリティーの充実を売りにしていますね。あと、ペットも応相談とのことですが、ペット可物件は、人気があり高稼働率に寄与する半面、退去した時の原状回復費が通常よりも多額にある傾向があります。修繕費が年間145万ですから、年間の退去は2,3件といったところでしょうか。
ちなみに、賃貸事業収入の下にあるその他収入は、礼金や専有部分の水道光熱費(個別メーターのない場合)、自動販売機の収入などです。敷金は、預り金ですから、収入にはなりません。
物件管理等委託費
次に、物件管理等委託費です。160万程度計上されていますが、これはオーナーに代わって、家賃集金や苦情の受付、入退去対応などを行う管理会社に支払う管理委託費です。
投資法人の保有する物件のこうした現場的な管理は、投資法人でも運用会社でもなく、物件の管理会社が行います。現物不動産を大家さんが自主管理する場合は別として、管理会社に管理委託することは多いですよね。
ですから、投資法人や投資家から見ると、運用会社に報酬を支払い、物件の管理会社にも管理費を支払うことになります。
現場的な物件の管理は、それぞれの物件の管理会社が行い、さらにファイナンスも含め、全体的な運用を行うのが運用会社といったイメージです。
物件管理等委託費で160万ということは、月13万程度です。家賃の8.9%ですか。現物の不動産投資家さんから見たら、高いなあと思う水準でしょう。
物件管理等委託費なので、管理会社以外の部分も含まれているかもしれませんね。このあたりは、気になったら投資法人の決算説明会にでも聞いてみてください。
そして、管理会社への委託料のみですという回答がきたら、「willDo横浜南は8%を超える管理費ですね。一般的には高くても8%未満かと思いますが、どう思いますか?」 という質問を投げかけてみてください。
公課租税
主に固定資産税、都市計画税です。
修繕費
これは、退去時の原状回復工事や入居中に発生した不具合の修理、共用部分の修理などが該当します。なお、資本的支出と修繕費の違いは以下のように定義されています。
資本的支出 その有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出
修繕費 その有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費
上記を丸めて言うと、0から+1に高める場合が資本的支出であり、-1から0に戻す場合が修繕です。
保険料
火災保険料ですが、年間5万程度ということで、この規模だと安く感じますが、RCということですし(一般的に木造の方が高い)、この物件の取得当時は、35年などの長期で保険契約が可能だったということもあるでしょう(現在は10年未満)。
広告管理料
これは、入居募集にかかる仲介手数料だとかいわゆる広告料です。仲介手数料は、家賃の1か月分とかであっても、上乗せで広告料として、もう1か月分を乗せる場合があります。当然ですが、これが多い方が仲介ショップも頑張ります。
年間で70万程度かけていますね。入居が2,3件だとすると、かなり広告料をかけているのかもしれません。3か月分支払っていたりして?
減価償却費
次に、減価償却費ですが、年間480万程度費用化できるようです。これは、現金支出を伴わない費用です。特に、リートにおける減価償却費については、以前以下のような図で説明をしました。
リートにおける減価償却費は、分配金には回らず、投資法人の大規模修繕工事などの資本的支出等のため、プールされることになります(利益超過分配を除く。)。
【リート考】分配金利回り、FFO利回り、NOI利回りを算出して、減価償却費との関係を考えてみる。(サムティ・レジデンシャル投資法人(3459)とジャパン・シニアリビング投資法人(3460))
ですから、ことwillDo横浜南だけに特化してみますと、年間480万程度の減価償却費は、分配金の原資とせず、プールしておき、将来の大規模修繕工事などに使用することとするわけです。
借入金利息及び元本
借入金利息と元本については、willDo横浜南単独の情報がありませんでしたので、全体の取得価格比率から割り出した金額です。
willDo横浜南の収支のまとめ
以上科目別に見てきましたが、もう一度以下の図を見ながら、手残りとなる現金などを確認してみます。
投資法人の手残り
賃貸事業収支(=(A)-(B))は、13,405千円ですが、これから借入金の利息を減じると、12,379千円となり、これが投資法人の手残りです。賃貸事業収入に対して、このくらいの借入金返済なら、余裕のある運営ができそうですね。
なお、リートの場合、元本は、期日一括返済といって、借入期間の終了時に一括で返済することとなっていますが、借換え前提で運用されています。一応参考までに金額を掲げていますが、ここでは、元本部分の現金支出はなしとして考えています。
また、投資法人は、税引き前利益の90%以上を投資家に配当することで、法人税が実質無税となります。
投資家目線での手残り
一方で、先ほど投資法人の手残りと書きましたのには、理由があります。減価償却費は、投資法人の手元に残り、将来の資本的支出のためにプールされるのでしたね(利益超過分配を除く。)。ですから、実際、いわゆる投資家目線での手残りは、12,379-4,819=7,560千ということになります。
また、投資法人から投資家へ分配金が支払われた時点では、20.315%の所得税+住民税がかかります。
補足
リートの場合、以上がすべての経費ではありません。以上の経費に加えて、投資法人全体の運営に必要な費用があります。資産運用報酬や役員報酬、資産保管手数料、一般事務委託手数料などです。実際は、この費用も負担した上で、当期純利益が算出され、投資家に分配金が支払われるのです。
コメント
この記事へのコメントはありません。
コメントする